今回は、前2回のミース・ファン・デル・ローエに関する記事の番外編とでもいうべきバルセロナ・チェアに纏わる話題。
9月17日(木)ロエベ表参道店で、ロエベとノールとのコラボレーションで世界で1脚だけ作られたロエベのアンテ・オロ レザーを使ったバルセロナ・チェアのお披露目が行われた。
招待の人々で賑わう店内にあって、“黄金のスエード”を意味するアンテ・オロに包まれたバルセロナ・チェアは、いつもより少しばかり優雅で優しげな表情をみせながら、しかしながら相変わらず超然とした佇まいでそこに存在していた。
ロエベとバルセロナ・チェアは、ロエベがスペインのレザー・メーカーでバルセロナ・チェアはその名のとおり1929年のバルセロナ万博のドイツ・パビリオンのために作られたチェアであるという、共通するスペインというキーワード以外にも、実は通じ合う点が意外に多いことに驚かされる。
ロエベはもともと、エンリケ・ロエベ・ロスバーグというドイツの職人がマドリッドを訪れた際にスペインの皮革加工技術や職人に魅せられてことがきっかけとなって作られたメーカーであり、意外にもその出自にはドイツとの繋がりが存在している。
そのロエベに対して1905年にスペイン王室御用達の称号を与えたのが当時の国王アルフォンソ13世であり、そして、バルセロナ・チェアは、そのアルフォンソ13世がバルセロナ万博のドイツ・パビリオンに臨席する際の玉座として作られたものであった。
さらに、アンテ・オロが最初に使われたロエベの1975年の「アマソナ」は、それまでの44年間のフランコ独裁政権からの解放を記念して作られたといわれるシリーズであり、その驚くほどしなやかで豪奢なテクスチュアを誇る“黄金のスエード”は、なるほど、それまでの独裁政権への見事な批評性を内包したマテリアルだといって過言ではない新しいエレガンスとでも呼ぶべき魅力を放っている。
1975年の王政復古により44年ぶりに国王の座に着いたのが、その後のスペインの民主的な立憲君主制の確立を推し進めた、そして今もなおスペイン国王たるファン・カルロス1世であり、彼こそはミースが玉座としてバルセロナ・チェアを献じたアルフォンソ13世の孫にあたる人物なのである。
おそらくはこうした浅からぬ関係性を背景にして作られたであろう世界でたった1脚だけのアンテ・オロのバルセロナ・チェアは、マイクロソフトから転進したジョン・ウッドが主催する、途上国の子どもたちに教育の場を提供する NGO ”Room to Read” に寄贈されるという。
ノール社のこれまたエレガントな雰囲気のOさんやYさんと会話を交わしながら、そのことは、真っ白な子羊の皮を纏ったミース・ファン・デル・ローエによる初代バルセロナ・チェアからちょうど80年後に作られた、このエレガントで豪華で特別なバルセロナ・チェアに実にふさわしい落ち着き先かもしれない、と考えていた。
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