先日、お知り合いの方からタナ・ノートン2008という国産の赤ワインをいただきました。
エチケットもシンプルでとても素敵な印象です。
早速、このフルボディの赤ワインを賞味してみようということで鴨のコンフィなんぞを用意して抜栓いたしました。
ベリーやスパイスや皮っぽい香りにまず圧倒されます。
テイストはというと、渋くドライな濃厚さの中にスムーズな酸味がうまくバランスされており、果実味のインパクトだけではない、繊細さもあわせもった奥行きのある味わいにこれまた驚きます。
さらにノンフィルターらしい細かい澱なども混じった最後の方の複雑で深いな味わいは特筆すべきものでした。
このワインの葡萄の品種であるタナ種もノートン種もあまり日本ではお目にかからない品種ですが、雨の多い日本の気候でうまく育つ品種をという視点で選んだ品種なんだそうです。確かに有名品種にこだわった水っぽいワインが多い国産ワインとは明らかに一線を画す存在感を持ったすばらしいワインに仕上がっています。
このワインが造られるのは栃木県足利市のココ・ファーム・ワイナリーというところで、その運営の母体はこころみ学園という知的障害者のための施設です。そもそもこのワイナリーの原点が、こころみ学園の前身である特殊学級の先生と生徒達によって1950年代に開墾された葡萄畑にあるのだそうです。
ワインに同封されていたこれまた趣味の良いイラストが描かれた小さなしおりにはこうあります。
「平均斜度38度の葡萄畑で、炎天下、夏草を刈り、日の出とともにカラス追いのカンを叩き、一粒一粒の葡萄を大切に摘み取り潰し、寒風吹きすさぶなか葡萄の枝を拾い集め・・・自然とともに働く日々は、知恵遅れと呼ばれ続けた子供たちを、知らず知らずのうちに寡黙な農夫にかえていきました」
こうした情報のせいもあるのでしょうか、タナ・ノートンの濃厚な液体を口に含み目を閉じると、強い陽光、激しい風雨、凍える雪など激しい自然のなかに佇む葡萄畑のシーンとその後にこうして穏かにグラスの中に存在するワインが対比的に思い浮かび、まさに、ワインとは土と太陽と人の産物なのだと改めて感じ入ってしまいました。
このタナ・ノートンというワイン、現在の力強い魅力もさることながら、もう少し時間がたって熟成が進み、ある種の洗練さなどが加わった状態なども楽しんでみたいと思わせる懐の深いワインです。
飲み終わった後は、改めてそのエチケットを眺め、そこに書かれている雰囲気のある達筆の手描き英文(串田孫一氏による)の解読で盛り上がりました。
ちなみに、いっしょに合わせた料理は以下の4品でした。
<ポロネギのマスタード風味サラダ ルッコラ添>
<芽キャベツのフリット>
<鴨のコンフィ リヨン風ポテト添>
<薄いリンゴとパイのオーブン焼>
日本でもこうしたしっかりしたストラクチャーを持った表情豊かなワインが作られていることを初めて実感でき、国産ワインのクォリティの高さに目を開かれる思いをする貴重な体験でした。
ワインをいただいた、ワイナリーにも関係されているユッキーさんに感謝するとともに、ココ・ファーム・ワイナリーとその葡萄畑をいつか訪問してみたいものだと思いました。
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