『ココ・シャネル 1962』と題された写真家ダグラス・カークランドがガブリエル”ココ”シャネルを撮った写真展を見てきました。
当初、取材依頼に乗り気ではなかったシャネルでしたが、当時27歳のダグラス・カークランドのハンサムな容姿とそしてなによりもその技術に魅了されて、3週間に渡る密着したプライベート取材を許可したといわれています。
当時のシャネルは既に79歳。とはいえシャネルスーツをまさにお手本の如くりゅうと着こなし(当り前か!)コレクションを指揮する姿やトレードマークの大きな口で破顔する表情には、とうていその年齢はうかがえません。背筋がピンと伸びたモダン・エレガンスの体現者そのもの、ポール・モランが形容した「転がり落ちる溶岩のような声」が今にも聞こえてきそうです。
何気ない表情や一瞬の立ち振る舞いにそうしたシャネルならではの存在感を捕らえるグラス・カークランドも見事な腕前です。
1962年は26歳のイヴ・サンローランが、勤めていたクリスャン・ディオールを離れ、自らのブランドで初めてのオートクチュールのコレクションを発表した年に当ります。シャネルが自分の後継者として唯一名前を挙げていたのがサンローランです。こうしたエレガンスの新しい担い手が登場し始めた1962年前後は、シャネルにとっても1954年に71歳で復帰した後では、最も輝いていた時代だったのかもしれません。
メゾンの上階にあったアパルトマンに置かれたメルキュール・ミラーやコレクションしていたコロマンデル屏風やルイ15世スタイルのパーソナルチェアなどなど、マドモアゼルのアパルトマンのインテリアを垣間見られたのも嬉しい収穫でした。写真を見ながら、やっぱりヨーロッパの室内に置ける鏡の存在は特別なものがあるのだ、などと一人納得を新たにしておりました。
とはいえ最も心を捉えられたのは、マドモアゼルが当時住んでいたホテル・リッツからその裏通りにあたるカンボン通りのメゾンまで徒歩で通勤(!)する姿を捕らえた1枚です。
パリの通りの喧騒が今にもここまで伝わってきそうな、そして、何気ないパリの日常を背景に79歳のマドモアゼル・シャネルが帽子の庇を伏せるようにして(たぶん)足早に、しかしながらあくまでエレガントに、自分自身の戦場へと向かうその姿は、見る者をして改めて毎日の仕事への勇気を起こさしめるような心に染みる1枚でありました。
*『ココ・シャネル 1962』 ダグラス・カークランド写真展は、9/29まで銀座シャネル4Fで開催中
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