新宿区市谷のアンスティチュ・フランセ東京(旧東京日仏学院・1951年)は本年(2019年)、建築家・藤本壮介によって改修・増築の予定だ。
最初の建物が完成してから今年で57年、改修前に坂倉準三のマスターピースを再訪した。
アンスティチュ・フランセ東京は、新宿区船河原町の、市ヶ谷台地へと上る逢坂が始まるところに建っている。高台の敷地に建つその姿は、しばしば丘の上の客船と形容される。
現在は手前にマンションが建って眺望は遮られてしまっているが、かつては外堀方面への見晴らしがさぞ素晴らしかったに違いない。最上階(3階)は、当時は学院長の住居だったそうだ。
張り出した薄いスラブが水平に真っすぐ伸びて行って、妻側で大きく張り出しオープンエンドのバルコニーとなって終わる。崖の上から下界に向かって今にもダイブするかのような躍動感と浮遊感を見る者に感じさせる建物だ。最上階はややセットバックしており、柱に支えられた屋根が、空中に浮かんでいるようなイメージを一層強調している。
印象的な柱はその形状からシャンピニオンの柱と呼ばれている。シャンピニオンの柱は外部だけではなく内部においても展開されており、なぜキノコ状の柱なのかは現在では不明とのことだが、構造的な理由ではなさそうだ。坂倉作品でキノコというと、出光興産のAPOLLOのガソリンスタンドの円盤型の屋根が思い出される。
道路側のファサードは白の木製サッシュによるカーテンウォール。清明で美しい。竣工当時の写真を見ると、スラブは白、シャンピニオン柱も白、方立はやや落とした色に塗られおり、現在とは逆の配色になっている。
入り口の坂を上った先の敷地は、都心とは思えないぐらいに大きな木々に囲まれている。潤いが感じられない外堀通沿いの街並みとは雰囲気が一変し、この坂の上の場所は時間の流れが違って感じられるほどだ。右手にはレストラン「ラ・ブラッスリー」があり、気候が良い時期は芝生のテラス席で食事ができる。
ブルーに塗られたバルコニーとフランス国旗が目を引く。ピロティ状になった通路には小さな書店(欧明社リヴ・ゴーシュ店)があり、そこだけはパリの街角のような雰囲気だ。
シャンピニオン柱と併せて印象的なのが、L字配棟の結節点に設けられているTOUR SAKAKURA(坂倉の塔)と書いたプレートが掲げられた白い塔の存在だ。この塔は当初のエントランス兼階段で、階段は2重らせん階段と珍しいものだ。教室への動線と最上階の学院長の部屋への動線を分離するためとされている。
この塔のおにぎり形の平面はどこかで見たなと思ったら、今はなき東急東横線のホーム東側に設けられていた目隠し壁だった。同ホームのかまぼこ屋根と併せて、この東横線ホームをデザインした設計者は一般には不明とされているが、この塔を見て、設計者はやっぱり坂倉準三だったと確信が持てた。シャンピニオン形やおにぎり形を、坂倉は他の建物や家具でも採用している。
レセプションや図書館がある右手の建物は、竣工後に同じ坂倉準三による増築された部分だ。最初の建物の模型を見ると、書店がある部分の建物も増築の際に改築されているようだ。最初の建物にはバルコニー状の張り出しはなかったし、内装も何回か変更されている。
増築部分にある1階と2階をつなぐ階段。流動するように連続する空間と視線が刻々と変わる空間構成は師コルビュジエのコンセプトだった「建築的プロムナード」を思い出させる。
<後編>に続く
*初出 : zeitgeist site
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