今年も例年にならって、カタクチイワシを入手して自家製アンチョビ作りを実施。1ヵ月後には、日本で入手できるビン詰めや缶詰のそれとはまったく異なる、加熱して食するなどもってのほかの逸品が完成する計画である。
今年はついでに、そこはかとない塩とレモン汁によるレア・マリネというかレア・アンチョビ的なものも試しに作ってみた。こちらの方は作ったその瞬間からカルパッチョ感覚で楽しめ、さらにオリーブオイルに浸しておけば1週間程度の間は熟成度合いの変化が楽しめる、これまた楽しいアンティパストの1品である。
アンチョビといえば、今回のバスクの旅でも大いに大西洋のアンチョビ(ちなみにANCHOVYは英語、フランス語ではANCHOIS、イタリア語ではACCIUGA、スペイン語ではANCHOA)を満喫したことが思い起こされる。日本では小イワシといえば英名JAPANESE ANCHOVYと呼ばれるカタクチイワシ(ヒシコイワシ、シコイワシ、セグロイワシなどとも)のことであり、しらす、ちりめんじゃこ、目刺し、畳いわし、煮干、田作りなどでおなじみのもの。
大西洋の小イワシは、日本の小イワシに比べ、身が詰まっている一方でハラっと崩れる感じというか、ちょっと日本のアジに近いような食感であり、どうも同じ小イワシでも日本の小イワシと大西洋の小イワシでは種類が異 なるらしい。
てな話しはともかくとして、今回のバスクの旅では、サン・セバスチャンのバルのピンチョスをはじめ、オイル漬け、マリネ、フリット、グリルなどさまざまな料理法で小イワシを食べたが、どれもこれも素朴な海の逸品というべきもので、バスクは日本の瀬戸内海地方と同様に小イワシ好きには病みつきになりそうな、実にうれしいところであった。 ちなみにアンチョビの語源はバスク語のANCHOVAということらしく、なるほどバスクが面する大西洋の小イワシは美味しいわけだと納得し、連日のバルのはしごで味をしめた大西洋の小イワシが忘れられず、最後にはサ ン・セバスチャンの食材屋でZUMAIA(漁港で有名なGETA RIAの近くの港町)産の瓶詰めアンチョビを購って帰国。日本でもかの地発祥といわれるピンチョスに思いをはせつつつ、インチキピンチョス料理をでっち上げ大いに盛り上がっている。
手作りアンチョビの作り方はすこぶる簡単だが、シンプルゆえに奥が深く、塩と発酵のバランスが時間・温度・湿度で微妙に左右され、意外に難しかったりするが、なに、構うことはない、そば打ち、干物、ベーコン作りなどと同様に、仮に失敗しても、並みの市販のものよりも格段に満足ゆくものが出来上がることは必定であり、トライするにしくはない。あなたの手作りアンチョビを乗せるだけで、たとえ凡百バゲットのブルスケッタといえどもスペインやイタリアのバールの定番レベルの一品に一変 すること請け合いである。
最後に手作りアンチョビの作り方を記して置こう。まず、カタクチイワシを流水で洗い、汚れやうろこを取り、ペーパータオルで水気を拭く。バットに粗い岩塩を敷いてイワシを並べ、上から岩塩をかける。これを繰り返しながら、重なったイワシが塩でコーティングされているような状態とする。重しになりそうな一回り小さめのバットなどを載せて冷蔵庫で約1ヶ月寝かす。途中、イワシから相当の水分が出てイワシが塩水に浸っている状態になるがそのままにしておく。1ヶ月の後、塩水もあらかた蒸発しているのを確かめて、手開きで頭・内臓・骨を取り除き、フィレ状にして丁寧に水洗いの後、水気をふき取る。密閉性の高い清潔な瓶などにフィレ状のイワシを重ねていき、途中、適宜イタリアンパセリを加え、エクストラバージンオリーブオイルを注ぎ、最後はイワシがオイルに完全に浸ってる状態で保存する。すぐにでも食べれれるが2~3日オイルをなじませた方が美味。さらに半年ぐらいからは熟成した味が楽しめる。1年程度は持つ。
塩蔵の前に頭・内臓を取るやり方もあるが、そのまま塩蔵して最後にフィレにした方がイワシ全体の旨みが閉じ込められて断然うまそうだ。
1年後のシャンパーニュとワインの友の完成にむけて成功を祈る。
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