金融危機が未曾有の世界的不況を招き寄せている感の強い今日この頃、金融不動産業界に身を置くU氏と渋谷某所で話し合った。
U氏 混んでるネー。危うく入りそびれるところでした。ちゃんとしたものを真っ当な価格で供するところはますます人気だね。ということで、まずはスタートはシャンパーニュかスパークリングにしたいとこです。
t/o やっぱ、シャンパーニュと言いたいところですが、現下の世界的な経済状況を鑑みて、スパークリングといたしましょう。モエがオーストラリアのヤラヴァレーで製造する瓶内2次発酵のシャンパーニュ製法によるスパークリング、グリーンポイントなどはいかが。
U氏 いい選択!グリーン・ポイントのロゼをボトルで。
t/o 今日は少し真面目に金融や不動産を話し合ってみたいと思ってますが、今日も先週に続いてまた、マンションディべロッパーが潰れちゃいましたね。またぞろ日本も不動産バブルの崩壊というわけ?
U氏 ディベやゼネコンの倒産はまだまだ続きそうだね。第二次不動産バブルの崩壊とも言われています。
ここで、クラウンキャップのモダンなボトルのグリーン・ポイント・ヴィンテージ・ブリット・ロゼが運ばれてきて、
t/o では乾杯!それにしても、なんで世界中でこんなにバブルが頻発するの?
U氏 今回のアメリカの例でいえば2000年のITバブル崩壊後、金融緩和が続いているなか、有利な投資先を探していた資本が、サブプライムローンを証券化して世界中に売りさばくという手法を開発して荒稼ぎしだしたことが、住宅価格の上昇の引き金になり、その後の金融引締めに伴なってローン破綻者が増え、市場に不安感が広がりバブルの崩壊に至ったという流れだった。
t/o 今回の日本の場合はどうなの?サブプライムとは関係ないじゃない。
U氏 日本の場合は10年以上も地価下落基調が続いていることもあり、不動産価格が相対的に割安だとの認識が世界中に広まり、運用先を探している外資系の投資資金などが流入して、それらを買い手としたいわゆる不動産流動化事業と称した一棟売りやさらにそうした資産をREITを通じて広く売りさばく証券化ビジネスが大はやりして、その結果、事業用地を中心に価格が上昇していったという経緯だった。この間の金融緩和は世界的な状況で、スペインやイギリスなどヨーロッパでも土地価格はバブっていたといわれている。それが、アメリカの金融不安がきっかけとなり世界的にバブルが崩壊したというわけだ。
t/o 経緯は分かったけど、日本は前回のバブルで痛い目に合って、投資基準がかつての転売価格をベースにした考え方から、それこそアメリカ流の「客観的で合理的な」収益還元に基づく考え方に変わったんじゃないの?デューデリジェンスとか、ディスカウト・キャッシュフローとか、ファシリティ・マネジメントとか、業界が急にモダンでスマートな雰囲気を漂わせるようになったじゃない。でも冷静に考えてみると、この間の賃料や利子率からみて、そもそも、不動産価格が上昇する余地なんてあったの?
U氏 収益還元と言ったって、予算を抱えて競合の中で物件を買わなきゃなんない立場になったら何とでもなるということなわけ。例えば、今の利回り水準はこれくらいだが、全面リニューアルすれば賃料が上げられるのでこのくらいになるとか、3年後に今のビルをぶっ壊して最新機能の複合ビルにしたらこのくらいになるとか、高値買いの理由はいくらでも作文できるということ。ライバルがこういう調子なら、企業の慣性としてこっちもSF並みの稟議書を書かざるを得ないという点では、20年前とまったく変わっていないのかもしれない。
t/o そういえば、90年バブルの時もIRRとか計算させられたけど、将来の売却価格をいくらで入力するかによって、収益率がまったく変わってしまう式を基準にするなんて、なんかインチキくさいなーと思ったもん。とはいえ、「内部収益率からみて」なんていうと、なんか急に頭が良くなった気がしたのも事実ですが・・・・。
U氏 単年度プレイヤーにとって、土地を買う予算が設定されれば、とにかく買える値段で買うしかないということは、古今東西決して変わらない不動産屋の宿命なわけです。
t/o バブルの話に戻ると、ということは、今回の世界的なバブルも、金余り→資産バブル→金融引締めを機に崩壊という構図という点では90年の日本のバブル崩壊と全く同じということ?
U氏 そういうことになるね。
t/o 逆に言いうと、こんな短期間にしかも同じ経緯で世界中でバブルが発生して崩壊するということは、どこかに構造的な要因があるということじゃないの。それと、これも前回と同じだけども、危ないとかバブルだとか散々言われながら、結局は崩壊するまで分からない、行き着く所まで行って初めて今までがバブルだったことが分かるというのも、なんか腑に落ちない気がするんだけど。
U氏 確かにグリーンスパンなども、バブルの発生は事前や渦中では分からないと自嘲気味かつ開き直り気味に言っているね。バブルというのは実態価値以上に資産価値が上昇する現象と定義されているけど、実務的には両者を線引きするのは極めて難しい。
t/o そもそもバブルというのは、金融があって初めて成立するわけだよね。物々交換経済ではバブルは起きないから。ということは、金融、つまりその根本機能である信用創造の仕組みになにやら胡散臭いものを感じるね。
U氏 さて、そろそろ赤に移りましょうか。次ぎは透明感のあるピノ・ノワールと行きたい気分です。
t/o (ワインリストを眺めながら)ということは・・・・ここは、5,000円クラスでしかも世界各地からのヴァラエティのある品揃えで嬉しい限りです。それでは、日本では割と珍しい、ブルゴーニュはコート・ド・ボーヌ地区のペルナン・ヴェルジュレス村のドメール・ドニ・ペール・エフィスによる一本を行ってみましょう。
U氏 そもそも信用創造という仕組みには、2つの前提があって、1つ目は借り手の返済能力に依存している仕組みであるということ、2つめ目は全員が同時に預金を解約することは確率的にありえないということ、信用創造はこの2つの前提に立って、いわゆ る本源的預金といわれている最初の預金を上回る信用=預金=資金が創造されていく仕組であり、市場全体としての信用の拡大は市場全体の借り手の返済能力の拡大と軌を一つしているといえる。
t/o うーん、なるほど!ということは、返済が滞らない限りはそれが単なるハッタリでも、信用は維持される訳だ。つまり、価格が大幅に上昇している局面でも、買売の連鎖が続いている限りは、それが実態のない信用膨張、つまりバブルなのか、実態のある価値上昇による信用拡大かどうかは原理的に分からないということ?
U氏 どうもそういうことらしい。バブルは、売買の連鎖が途切れ、最後の借り手の返済能力が破綻しない限りバブルだとは分からない、そして、いったん破綻すると、つまり1つ目の前提が崩れると、膨張した信用への不安が一気に現前化し、信用収縮が起こり、預金や資金がいっせいに引き上げられる。信用の仕組みに関する2つめの前提が崩れるということだ。そして金融危機が起こる。
t/o バブルの生成と崩壊のメカニズムは信用そのものの仕組に起因している。したがって、そもそも金融という仕組の内部では、バブルを制御すること自体が原理的に不可能である。そして、信用や金融が不可欠な我々の世界とは、実は自己崩壊的エートスを内包した世界でもある。何故、バブルが事後的にしか分からないのかは、バブルとは金融の本質そののもだから。これって、すごく怖いことじゃない?
U氏 もっと怖いことをいうと、バブルと金融危機の起こる可能性は、金融自由化が進み、金融技術が進歩し、金融市場がグローバル化した現在、益々高くなっているということ。そして、一旦起こった金融危機は世界を巻き込んだ恐慌にまで発展する可能性もますます高くなっているということ。
t/o 国内だけで話が終わっていた90年バブルのころが懐かしい感じがしなくもない。
U氏 たとえば、証券化という手法は、債権を小口化・複合化してより開かれた自由な投資環境を
生み出しているともいえる一方で、それが不良債権化した場合は、負の資産を小口化して
世界中にばら撒いて負の影響を拡大、複雑化してしまう技術であるともいえる。今までは、
証券化のプラスの面しか言われてこなかったけれど、今回のことで、そのマイナス面が
一気に露呈したという訳だ。いわゆるデリバティブと呼ばれる、先物やオプションやスワップ
などの権利を売買する商品やレバレッジという手法も全く同様だ。
t/o 10日にガイトナーが金融安定化策を発表したけど、株価はオバマ政権で最大の下げ幅だったのは今回のバランスシートの修復の困難さを象徴してる感じだね。
U氏 さっきの話で言うと、いわゆる金融の内部だけでは、ひとたび崩壊したバブルは修復できないということになるわけだからね。
t/o 人は金融を考案して物々交換の不自由さから逃れ、自由を獲得した。と同時にどうも根源的
不安定というもうひとつのものも獲得したらしい。人は自由になればなるほど不安もますま
す増大するという存在のパラドックスに似ている。
U氏 パラドックスといえば、資本主義も自由になればなる程、増大する不安定さを制御する制限、つまり規制が必要になるということが、世界的にだんだん分かってきつつあるということのようだ。あのアメリカで大手銀行や主力企業が国有化されるかもしれない事態って想像できた?もしこれが、ベルリンの壁が崩れ落ちる前だったら、この事態は一体、世界でどう報道され、そしてアメリカ大統領は一体、どう言い訳するわけ?実は自分こそはカール・マルクスの正統たる実践者であり、長い回り道を経ながらもアメリカは、社会主義国家に先駆けて効率と平等が両立する最終体制を目指しているのである、とでも言うわけ?
t/o ・・・・・・・・・・・・ 13日の金曜日にふさわしい締めくくりということで。
今、世界はこのパラドックスの前に、戸惑い、いらだち、右往左往してるかに見える。
今回の深刻な金融危機と未曾有の大不況の現実化によって、ある意味、世界はひとつだということがはっきりしてしまった。世界は好むと好まざるとに関わらず、資本主義という決して逃れられない運命共同体の下にあるということが。
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