「パリの空気」といいながら書いてることのほとんどは「パリの食事」だったりするという実態にふさわしく(?)最終回は注目ビストロの特集で締めくくりたいと思います。
まずは、17区は「ル・セルクル・デュ・ディセティエンム」 Le Cercle du 17e。日本人シェフの梶原節紀さんによる、ビストロの定番料理を山椒や山葵などの日本のスパイスも駆使し、モダンで軽やかな雰囲気に仕立て上げた一品を供するビストロです。例えば、その日のフォアグラはソテーしたものを黒飴のソースでいただくというものでした。ロニョンやブーダンなど伝統的な食材を使った一皿も基本を押さえた丁寧な仕事がなされた満足いくものでした。
フレンドリーで気さくなオーナー夫妻からのバスクの食後酒マンザナのサービスのお陰もあり、 同席した、現在はパリで生活する日本で仕事を通じて知り合ったOさんを含めて、この日は深夜まで話が弾み、シャイな笑顔にその人柄がそのまま現れている梶原さんとバカンス時期に滞在するという日本での再会を約したのでありました。
次なるところは11区の「ビストロ・ポール・ベール」 Bistrot Paul Bert。ここは他のビストロトのシェフや食関係の人が多く通うといわれるビストロ。
中に入ると意外に広い店内はそれぞれのテーブルで思い思いに盛り上がっている感じのまさにビストロらしい自由な雰囲気に満ち溢れています。伝統的なビストロ料理ばっかりと思いきや、こんがりグリルしたイイダコと赤ピーマンを組み合わせた一品やアンチョビの天ぷらなど、新鮮な食材や食感にこだわった重くなりすぎない今日的なアントレなどもそろえられており、お店の居心地の良さとあいまってなかなか使い勝手が良いさそうです。
とはいえ、デザートのマカロンの巨大さと甘さはやっぱり、かの地ならではのインパクトで、「マカロンとは饅頭である」との思いを新たにした次第です。
最後は15区の「ル・トロケ」 Le Troquet。食材本来の力強さをベースにしながらパリらしい洗練さをも併せ持った一品を供するのは、海あり山ありの食いしん坊の地方バスク出身のシェフ クリスチャン・エチュベストさん。
バスクはバイヨンヌに程近いアスペレンのメートル・シャルキュティエ「ルイ・オスピタル」の様々なハム・サラミ・ソーセージがバスケットに山盛りになったアントレを始め、マテ貝と生ハムのサラダ仕立て、ブーダンとジャガイモの重ね焼きを軽めのソースでまとめたパルマンティエなど、いずれも素材と仕事の両面において「参った!」という感じの一皿でした。
どのお皿にも添えられるバスク地方のエスペレット産の赤唐辛子粉がプレートの華やかなアクセントになってるのも印象的でした。
いずれのお店の場合も、こうしたレベルとバリエーションのアントレ+プラット+デセールが30~35ユーロ、日本円にして4,000円そこそこで楽しめるというのは、まさにパリでビストロ通いが病み付きになってしまう由縁なわけであります。
今回は仕事でモノを物色する旅に徹するゾとはいいながら、ついつい食の誘惑にも心惹かれてしまう、所詮モノのみには徹しきれない中途半端でやっかいな心性に半ば呆れながら、今年もまたパリを後にしたのでありました。
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