フィットした着心地と気に入ったデザインを併せ持った普段使いの服を見つけるのが意外に難しい様に、居心地が良くて満足できるクォリティの料理を供する、しかも何かにつけて顔を出したくなるようなお店を見付けるのは至難の技であります。
「何かにつけて顔を出したくなるような」というところが重要なポイントですが、実はそこのところは料理やサービスや内装以上に実際にお店を取り仕切るオーナーの存在が大きく左右するところでもあります。
六本木のワインバーの勝山さん、恵比寿のイタリアンの村上さん、中目黒のバルの内藤さんなど、東京で心惹かれてしばしば通うお店も、やっぱり名物のオーナーおやじの存在によるところが大きいようです。
今回はパリで心惹かれたお店の名物オーナーのご紹介です。
その人は、“パリの西郷南州”こと、6区はサン・シュルピス教会脇の路地に佇むビストロ「オー・ボン・サンプルサン」Au Bon Saint-Pourcainのムッシュ・フランソワ・ボンデュエルです。
眉の濃い声が大きい大柄なフランソワはちょっと見ではいかつい感じなのでついつい引いてしまいそうですが、実は気さくで細やかで心優しい人物。初めての客には緊張を解きほぐしリラックスできる様に気を配ってくれますし、フランス語が良く分からない客に対しても、英語を取り混ぜながら丁寧に料理を説明してくれます。食事中も要所要所で登場して、量は足りたか?水はどうだ?などとなにかに声をかけてくれます。
とはいえそのスタイルは気取りや押し付けがましさは皆無の自然体そのもの。その容姿もさることながら、姿を見ているだけで不思議と安心感がこみあげてくるムッシュ・フランソワの雰囲気に、思わず大人南州を思い起こさずにはいられませんでした。
お店の規模も彼の目の届く範囲のこじんまりした規模で、お客さんも気取りのない地元の“文化系”の常連さんやヨーロッパ各地からのパリ出張の際のお馴染みさんなど、自然体で感じの良い人が多く、そこがまたお店全体に気さくで居心地の良い空気を醸成している由縁でもあります。
料理は、ポロネギのビネグレットソテー、干しだらのブランダード、カスレなどのビストロの定番がラインナップされており、流行の凝った料理よりはカスレなどの定番をきちんと定番らしく食べたいときにお勧めです。
「オー・ボン・サンプルサン」は、居心地、うまさ、気兼ねなしの三拍子そろった見事なビストロです。
「ホテルまで気をつけ帰れヨ。今度パリに来るときもまた顔出しなヨ。」今回も“南州フランソワ”はいつまで も見送ってくれたのでありました。
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