今や正確には「新幹線弁の楽しみ」とでもいわなければならないわけでありますが、乗り込む駅で弁当やなにやらを購って、車窓から風景を眺めながら、あるいは夜行列車にあっては乗り合わせた車内の様子や途中停車駅の風景などを眺めながら、列車に揺られながら食べる弁当は、どんな一流のお店でも決して得られない、なににも勝る独特の楽しさと美味しさを提供してくれる食事です。
今回、とある用件で東京駅から夕刻に新幹線に乗り込むに際しての旅のお供として選んだのは、大丸東京店地下の日本橋弁松総本店は並六赤飯\1,155の一品。日本橋弁松は創業がペリー来航の3年前の嘉永三年(1850年)という日本最初の折り詰弁当専門店です。ついでに、同じ大丸の充実の地下食品街で手に入れし南フランスはラングドック地方のオーガニック赤ワインvin de pays d’oc Les Grands Arvres ADP d’oc Rouge約600円ぐらい(正確には忘れてしまいました)を携えて、いざ車内に乗り込みました。
弁松の弁当は普段は、東急東横店1階で売っている木挽町弁松の方を愛用していますので、今回は久しぶりに日本橋弁松を賞味できる機会となりました。
発車後ほどなく、車内販売のおねえチャンから缶ビールを購入して、汽車弁ディナーの始まりです。 弁松の弁当といえば昔風の「濃ゆい味」で有名ですが、私見ですがこの昔風の濃い味付けの惣菜の数々がワイン、特に赤ワインとこれまた合うのはないかと思うのであります。
ビールで喉も渇きも収まったので、さっそく、ワインとのマリアージュを試してみました。
* 日本橋弁松二段弁当 並六おしながき
めかじき照焼
玉子焼
豆きんとん
蒲鉾
辛煮(生姜・昆布)
甘煮(里芋、筍、蓮根、つと麩、ごぼう、椎茸、絹さや)
さすが蒲鉾との相性は???でしたが、メインの甘煮(野菜の煮物)との相性は抜群。特に滋味溢れる椎茸との取り合わせは最高でした。また、生姜のシャープな辛さと昆布の旨みが効いた辛煮と今回の選んだ果実味がありながらもタンニンもしっかりした南仏のワインが意外にも優れたマッチングを示していたこともなかなか面白い発見でした。
とはいえ、まあ、なんといっても、車窓からの遠い街明かりのはかない動きや、はたまた偶然車内に乗り合わせたの人々の行動観察や人生推理、時々拾い読みする文庫本の文言、そしてなによりも前のテーブルを倒すなどすると狭いながらも妙に占有感のある列車独特の座席空間に身を置きながら規則的な列車の揺れと低くくぐもった動力音などと共にいただくことこそが汽車弁の至福の楽しさです。
そして、かつて読んだこんな文章を思い出すのであります。
「子どもの頃に駅弁を買って貰ってうまかったのが、大人になるとともに薄れず、駅弁を買うのを旅行する楽しみの一つに数えることが出来れば、そういう人間は健康であって、西洋でも何でも世界の珍味に浸るに足る、ということが書きたかったのである。料理のことを知るのにしたがって、駅弁などまずくて食えないというような通人の仲間入りを我々はしたくないものである。」(『舌鼓ところどころ』(吉田健一 中公文庫)
copyrights (c) 2009 tokyo culture addiction all rights reserved. 無断転載禁止。