靴磨きと並んで忘れてはならないのがドレスシャツのアイロンがけです。
クリーニングに出せば済むことでしょう?というのではまだまだドレスシャツの楽しみの一部しか堪能しないで終わっているような気がします。
糊など付けずにあくまでソフトにかつ要所はピシッと仕上げたドレスシャツに袖を通すことは、少々大げさにいえば、いつの時代も困難な世の中を生きる大きな拠りどころとなっているのです。
とはいえ、ドレスシャツのアイロンがけはなかなか厄介で面倒な行為であることも事実です。
そもそもコットンシャツ自体が、くしゃくしゃし、ふわふわととらえどころがなく、力まかせでは扱い難いことはなはだしい代物であります。さらにちょっとでも油断をするとたった今きれいにプレスしたところにいつの間にか再びしわが寄っていたりすることも日常茶飯事です。へたをすると要らぬところにわざわざ頑固なしわを自ら作り出してしまうなんていうことも起こり得ます。
靴磨きが2次元の磨き布で3次元の立体をなぞってゆくいわば「積分法的」行為だとしたら、ドレスシャツのアイロンがけはまさに逆、身体という3次元立体を包む布をアイロンにふさわしいフラットな2次元平面に次元を下げながらプレスしてゆくいわば「微分法的」アプローチの行為です。
今回は、その名も「微分法的ドレスシャツのアイロンがけ」のおすすめです。
まずはカフ(袖口)の部分から取り掛かります。カフは裏をかけて次に表、そして布の周辺から中央に向かってかけるのが原則です。しわを中央に逃がす感じがポイントです。
袖の部分も裏面からかけます。先ずは筒状の3次元に作られた袖を縫い目に沿って手アイロンで2次元に還元します。
何事もそうですが、ことアイロンがけでも実は実際にアイロンを手に持つ以前のことがとても重要です。ここでは多少時間がかかっても良いので丁寧に手アイロンでしわを伸ばしてからプレスするのがなんといっても成功の秘訣です。袖口近辺のギャザーの部分は無理にプレスせずにギャザーの流れに沿ってアイロン先端を差し込むようなイメージでプレスして行きます。裏が終わったら同様に袖の表面をかけます。
両袖が終わったら次に襟を片付けましょう。カフ同様に裏から表、周辺から中央へが原則です。
次は背中です。背中は内側からかけるのが「微分法流」です。台の上に背中を下にしてシャツ全体を大胆に広げます。
先ほどかけた袖はしわにならないように自然に左右に垂らしておけばよいでしょう。そんなに神経質にならなくても大丈夫。一旦プレスした布地は重量をかけない限りは意外にしわにはなりません。
襟や肩や袖が取り付けられて複雑に立体化された布を小面積毎に手アイロンで2次元平面に次元を落としてプレスするのがポイントです。
まずは肩口部分、次にアームホール周り、そしてサイドの縫製部分を下までかけて、反対側の肩口、アームホール、サイドの順にかけてゆきます。最後に背中中央部分を一気に裾までプレスします。
いよいよ最後はシャツを裏返して左右の前身頃をプレスします。これまた部分部分にこまめに分割して平面に次元を下げながらけてゆきます。
肩から胸にかけておよび第1ボタン付近は、特に立体的になっていますので無理をせずに小面積毎に手アイロンで2次元化しながらかけていきましょう。
プレスが失敗して余計なしわができた時も慌てずに霧吹きで湿らせて再度プレスすればしわはきれいに消えます。
全体をおさらいしましょう。プレスする順番は、カフ裏、カフ表、袖裏、袖表、カラー裏、カラー表、肩と背中を裏から、最後に左右の前身頃の順、立体的に縫製されている部分はこまめに分割して手アイロンで2次元化させながらプレスしてゆくのがポイントです。また、なるべく広いフラットな場所を確保するのと、長めのアイロンコードというのもストレスがないアイロンがけのこつです。霧吹きに好みの香りのリネンウォーターを少し混ぜてそこはかとない香りを纏わせるなどしても楽しいかもしれません。
試行錯誤を繰り返していくうちに、最初ははなはだ扱い難いと思ってドレスシャツが、いつの頃からからか自在に扱えるようになり、布地を空中で回転させ、手アイロンで台の上にバシッと伸ばして、すぐさまアイロンでギュッとプレスしてゆくなど、一つ一つの行為に流れとリズムが発生するようになっているのに気がつくでしょう。
おそらく最初は一着10分以上はかかっていた時間も、慣れれば一着5分程度で終わるようになり、ウイークデイの5着分をプレスするに週末の30分をあてれば十分というようになるはずです。
ウイークエンドに一心不乱にドレスシャツと格闘する時間は、ガーデニングの土いじりや料理づくりや自転車いじりなどにまさるとも劣らない、ホームワーク本来が持っている職人的手仕事を楽しみながら、ちょうどよい気分転換の時間になることうけあいです。 copyrights (c) 2010 tokyo culture addiction all rights reserved. 無断転載禁止。
朝の勇気とプライドの源泉、パリットとしてソフトなドレスシャツのための「微分法的ドレスシャツのアイロンがけ」、ぜひ一度お試し下さい。