日本を襲った3.11の大震災と福島の原子力発電所の深刻な事故をきっかけに、古くて新しい問題を再び考えざるを得ないと思うようになった。
モノへの欲望を背景に生産規模の拡大を図りながら存続し続ける世界。同時にそこでは他国も含めた競争を通じて効率化が追及される世界。
独りだけ抜けがけすることはできず、しかも人間の欲望は限りがない。限りがないものこそ欲望であるといった方が正確かもしれない。
当面の競争環境のなかで最も効率的な選択肢が追求され、結果的に、エネルギーは原子力へと行き着いた（ただし、日本国における原子力の導入と普及に関するプロセスは詳しく検証する必要がありそうだ。必ずしも経済効率性だけだとは思われない。例えば『原発導入のシナリオ』など）。
世界資本主義のなか、原子力は、これまで我々の欲望を満足させるためのインフラとしてあったという現実。
電力不足は世界資本主義のなかで極めて深刻な問題だ。他国より、生産コストが高く、一方でエネルギー源や食料を輸入に依存せざるを得ない国家が生きのびてゆくということを残念ながら想像することは難しい。
今後、日本国において原子力エネルギーによる発電力の増強を期待することは難しいであろう。投資的視点のみからいっても今回の事故は、市場商品としての原子力発電のリスクを誰の目にも明らかにしたといえる。
これからこの問題をどう考えていくのか。
原子力に頼らずに世界資本主義のなかで生きのびてゆくには、エネルギーの革命と我々自身の欲望の革命を同時に実現する必要があるということだ。
そして欲望の革命は、欲望に根本をおいた世界資本主義の革命へと通じる道になるであろう。
車やTVやコンビニが当たりまえな世界はもう当たりまえではないのかもしれない。
2つ目は不条理という問題。
何故私ではなくてあなただったのか？あるいは、何故私であってあなたではなかったのか？その違いに必然や意味はなく、たまたまそうなっただけ。
「不条理に出会った後は、いっさいが根底から揺り動かされる。《自分が存在する》という観念、まるであらゆるものに意味があるように振舞っている自分の生き方（中略）―そうしたいっさいが、いつ死ぬかわからないという不条理性によって、眼もくらむばかりに激しく否認されてしまうのだ。（アルベール・カミュ 『シーシュポスの神話』 新潮文庫）
不条理への反応は3つあるといわれている。
１つ目は、生の無意味さに絶望した自殺。2つ目は、生の無意味から逃れる宗教、3つ目は、生の無意味さを受け入れること。
アルベール・カミュは、生の無意味さを認めながら生きることこそ、自分自身による自由な生を獲得する唯一の方法だとして、そうした態度を「反抗」と呼んだ。
「生きるとは不条理を生かすことだ。不条理を生かすとは、なによりもまず不条理を見つめることだ。」（同書）
「こうした反抗が生を価値あるものたらしめる。（中略）反抗はその生涯に偉大さを恢復させるのだ。（中略）知力が自分の力をはるかに超える現実と格闘している姿ほどすばらしい光景はない。人間の倨傲を示すこの光景は比類のないものだ」（同書）とし「重要なのは和解することなく死ぬことであり、すすんで死ぬことではない」と自殺を否定した。
宗教についても「奴隷状態に自発的に同意することで、かれらは深い独立を見いだすのだ。だが、このような自由は何を意味するだろう。（中略）かれらは自分が自分自身に対して自由だと感じているのであり、自由だといっても、とりわけ自由に解放されているわけではない」（同書）として切り捨てた。
「不条理を見つめる」とは、どういうことか。
不条理とは人間の理性と非理性的な世界（自然）とが対峙している状況のことだ。究極の不条理とは、死に向かう人間の生には何の意味もなければ目的もないということである。
「不条理を見つめる」とは、世界は不条理であるという不可避的状況を直視して、そうした認識の上に生を築きあげて行くこと。人間の力ではどうすることもできない不条理な世界を認識しながらそれと「和解」することを拒否し、それを乗り越えようと「格闘」をし続けること。こうした「倨傲」な態度こそが唯一自由な生を獲得する方法であること。
「こうして、人間のものはすべて、ひたすら人間を起源とすると確信し、盲目でありながら見ることを欲し、しかもこの夜には終わりがないことを知っているこの男、かれはつねに歩みつづける。岩はまたもころがってゆく。（中略）頂上を目がける闘争ただそれだけで、人間の心をみたすに充分たりうるのだ。いまや、シーシュポスは幸福なのだと思わねばならぬ」（同書）
我々は運命を乗り越える「俯瞰する眼差し」を持つことを求められている。
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