一応、中学・高校のころはシネアディクトを自認し、大学では映画研究会に所属していた。その後の大いなるブランクを取り戻すべく昨年(2013)に観た映画100本の記録。劇場とDVDまた2回目、3回目の鑑賞などゴチャ混ぜです。
1.チャイナ・シンドローム/ジェームズ・ブリッジス(1979)
共演者が霞むような現場の技師役のジャック・レモンの演技が圧巻。この映画でシンドロームという言葉を覚えたのだった。<1月1日>
2.風と共に去りぬ/ヴィクター・フレミング(1939)
南部が形成しつつあった貴族的価値観の崩壊劇。<1月2日>
3.愛染かつら/野村浩将(1938)
田中絹代が意外に過激。昔の新橋駅が描かれる。<1月3日>
4.ネットワーク/シドニー・ルメット(1976)
アカデミー賞を総なめした作品だが、今観るとウイリアム・ホールデンの優柔不断さとピーター・フィンチのやりすぎとフェイ・ダナウェイの単純さが混在した作品にしか見えないのは何故だろう。<1月5日>
5.アラビアのロレンス/デビット・リーン(1962)
異端児ロレンスは意外にもイギリスのイギリスたる所以を象徴する人物のように思える。彼らにとっては世界はリビングルームの延長なのだ。はまり役だったピーター・オゥールも昨年亡くなる。<1月7日>
6.晩春/小津安二郎(1949)
原節子と初コンビの最初の父娘物語。何故小津は娘の結婚をめぐる日常の物語に固執したのか?そこに無常のありふれた姿をみたからか。<1月10日>
7.東京暮色/小津安二郎(1957)
小津の他の作品比べると「事件」が起き「悲劇」が起きる作品。事件もまたありふれているからか。山田五十鈴良し。<1月13日>
8.マイバックページ/山下敦弘(2011)
優しすぎる主人公2人にはCCRは似合いそうもなかった。とはいえ川本三郎びいきにとっては最後の居酒屋で泣くシーンに素直に感情移入。奥田民生と真心ブラザースが歌う主題歌ボブ・ディランの"My back pages"良し。<1月18日>
9.生きものの記録/黒澤明(1955)
原子力をテーマにしてこのシナリオは見事。老け役三船敏郎の最後の表情は必見。<1月21日>
10.赤ひげ/黒澤明(1965)
誰もが納得するであろう黒澤明渾身の一作。三船敏郎とのコンビの最後の作品。<1月27日>
11.乱/黒澤明(1985)
大作だが全体に緊迫感が希薄なのは影虎に黒澤自身が感情移入してしまっているからではないか。キャスティングもイマイチ。<1月29日>
12.どですかでん/黒澤明(1970)
『季節のない街』山本周五郎が原作。暗い、とてつもなく暗い。<2月3日>
13.小早川家の秋/小津安二郎(1961)
小津唯一の東宝作品。いつもの娘の結婚ではなく道楽者の父親の生と死が主題。中村雁冶郎や浪速千栄子のような雰囲気を醸し出す役者はもういない。橋の上に喪服が連なる葬送シーンと笠智衆のラストのセリフ「せんぐりせんぐり生まれてくるわ」に小津流虚無感が漂う。<2月5日>
14.青春残酷物語/大島渚(1960)
ラスト近くのハンディカメラで新宿を歩く主人公を捕らえたシーンなど、なるほど「ヌーヴェルバーグの元祖」(J.L.ゴダール)という気がする。「僕たち男も女も自分を売り物にして生きていくしかないんだよ」は見事にその後の社会を言い当てている。<2月13日>
15.マイノリティ・リポート/スティーブン・スピルバーグ(2002)
社会に組み込まれたこの大掛かりな仕掛けとハッピーエンディングとの違和感。スピルバーグとトム・クルーズではしかたがないか。<2月14日>
16.最初の人間/ジャンニ・アメリオ(2013)
母親による「何故アラブに住むのか。それはアラブ人がいるから」という主人公の哲学を象徴する秀逸なセリフ。主人公はカミュよりカフカに似ている。<2月15日>
17.フォロー・ミー/キャロル・リード(1972)
孤独な存在としての個人をあくまで都会的にさらりと描いてみせるタッチがすばらしい。ジョン・バリーの音楽があってこそこの雰囲気が生まれた。<2月16日>
18.ミニミニ大作戦/ピーター・コリンソン(1969)
マット・モンローの”One days like these”が流れる冒頭のシーン良し。音楽はクインシー・ジョーンズ。マイケル・ケインのスーツはダグラス・ヘイワード。原題は”Italian Job”。<2月20日>
19.レッドオクトーバーを追え/ジョン・マクティアナン(1990)
冒頭での潜水艦の登場のさせ方が見事。その後一気に物語へと引き込む。水中シーンに水は一滴も使われていないとか。一度耳にしたら忘れがたいテーマ曲。原作者のトム・クランシーは昨年亡くなる。<2月22日>
20.ロング・グッドバイ/ロバート・アルトマン(1973)
ストーリーよりも雰囲気を楽しむ一本。本作で描かれる70年代風のマーロウは嫌いではない。とはいえ”It’s OK with me”(まあ、いいか)を連発するマーロウも最後は意外に硬派なのだ。若きアーノルド・シュワルツェネッガーがちょい役で登場。<2月24日>
21.セルピコ/シドニー・ルメット(1973)
今観るとアル・パチーノの熱演がややしんどい。<3月1日>
22.ワイルド・バンチ/サム・ペキンパー(1969)
暴力というよりは滅びの美学だ。寡黙なウィリアム・ホールデンがはまっている。<3月5日>
23.カッコーの巣の上で/ミロス・フォアマン(1975)
出演者の演技力のバトルがすさまじい。物語を未来へと開放するかのようなラストシーンが秀逸。<3月7日>
24.ブロ-クバック・マウンテン/ジョン・リー(2005)
美しいワイオミングの自然と2人の男の愛の物語。悲しい以外に何が言えるか。<3月10日>
25.フル・メタル・ジャケット/スタンリー・キューブリック(1988)
前半の海兵隊の訓練所シーンの方が後半の戦場シーン以上に印象に残る。<3月15日>
26.ミドナイト・イン・パリ/ウッディ・アレン(2011)
パリにあこがれるアメリカ人の目の前に現れる夢のような1920年代のパリ。ストレートな通俗性が魅力。<3月19日>
27.ガルシアの首/サム・ペキンパー(1974)
全編に漂う埃っぽいメキシコの空気感。追い詰められたギラギラ感を漂わせるウォーレン・ウォーツが放つ存在感。<3月21日>
28.クレーマー・クレーマー/ローバート・ベントン(1974)
家を出て行く際もラストの子供との関係でも、メリル・ストリープの役柄のようには決して振舞わない女性が多いように思うのだが。フレンチトーストのエピソードが印象的。<3月22日>
29.ル・アーブルの靴みがき/アキ・カウリスマキ(2011)
淡々とした日常、滲み出すユーモア、ある種の勇気をこのように描くことも可能なのだ。一度観たら忘れがたい独特のテンポと色彩感覚が魅力。<3月23日>
30.ラスト・タイクーン/エリア・カザン(1976)
豪華キャストゆえか構成のない凡作。ロバート・デニーロは『タクシー・ドライバー』と同年の出演。<3月28日>
31.ミスター・ジャイアンツ 勝利への旗/佐伯幸三(1964)
東宝の駅前シリーズのスタッフとキャストで撮った長島茂雄のセミフィクション。<3月30日>
32.時計じかけのオレンジ/スタンリー・キューブリック(1972)
暴力の制御は政治そものもであり、そのことはとりもなおさず暴力とは政治である、ことを喝破している。<3月30日>
33.モンキー・ビジネス/ハワード・ホークス(1952)
ケーリー・グラントとジンジャー・ロジャースの若返りの演技がおかしい。<4月3日>
34.俺たちに明日はない/アーサー・ペン(1967)
アメリカン・ニューシネマの先駆的作品。もともとはトリュフォーやゴダールに監督をやらせることで話が始まったのだそうだ。<4月6日>
35.クリムゾン・リバー/マチュー・カソヴィッツ(2000)
歴史、ホラー、サスペンスをミックスしたようなヨーロッパっぽい作品。特殊メイク技術によて製作された猟奇死体がリアルすぎる。<4月10日>
36.裏切りのサーカス/トーマス・アルフレッドソン(2012)
灰色のロンドンの風景と人目を忍んで繰り広がられるスパイ戦のリアリティが実にマッチしておりました。ストーリーはジョン・ル・カレの原作『ティンカーテイラー、ソルジャースパイ』を読んでないと分かりづらいかも。<4月11日>
37.チャイナ・タウン/ロマン・ポランスキー(1974)
"As little as possible(できるだけ何もしない)"というセリフが50年代のL.A.の退廃的なムードを象徴している。ポランスキーの雰囲気づくりの上手さには脱帽。フェイ・ダナウェイが意外に良し。ジョン・ヒューストンはさほど悪役には見えない。<4月14日>
38.スカイ・フォール/サム・メンデス(2012)
板についてきたボンド役3作目のダニエル・クレイグ。嫌々ながら着ているスーツが見事すぎるほど似合っているというのがいかにもボンドらしい。ハビエル・バルデムは期待はずれ。音楽の効果大。<4月16日>
39.クリムゾン・リバー2/オリヴィエ・ダアン(2004)
1作目の印象と脚本リュック・ベンソンということで期待したがダメ。<5月1日>
40.サウダーヂ/富田克也(2011)
土方仕事、移民、ラップなどを切り口に地方都市(甲府)に生きる若者たちの日常を描くその手さばきはなかなかの腕前だ。サウダージとは何に対する郷愁、憧憬、哀惜なのだろうか?<5月4日>
41.大統領の陰謀/アラン・J・パクラ(1976)
俳優陣の演技力が光る一方でテーマがテーマだけに展開はおのずと地味にならざるを得ない。ジェイソン・ロバーズ良し。<5月5日>
42.デンジャラス・ラン/ダニエル・エスピノーサ(2012)
冒頭のスピード感溢れる展開がなかなか。デンゼル・ワシントンはどう見ても悪役には見えない。<5月15日>
43.ザ・ドライバー/ウォーター・ヒル(1978)
カーチェイス見ごたえあり。監督は『ゲッタウェイ』の脚本家。無口なライアン・オニール良し。<5月16日>
44.タンポポ/伊丹十三(1985)
食をめぐるエピソードオムニバスとして観るべき映画。例えば有名なタンポポオムライスなど。ストーリー展開や構成的面白を期待してはいけない。<5月17日>
45.プラトーン/オリバー・ストーン(1986)
トム・ベレンジャーが「悪」、ウィレム・デフォーが「善」として描かれていように見えるが、戦場という「狂気」のなかでははたしてそう単純に割り切れるのだろうか?『地獄の黙示録』と同じ構図が潜んでいることに気がついた。一部シーンでMGCのM16が使われているそうだ。<5月18日>
46.ニーチェの馬/タル・ベーラ(2011)
微妙な変化を孕みながら淡々と続く父娘の生活を描いたこの驚くべき映像を世界の終わり(死)へと向かう絶望ととるか、あるいは神なき世界を生き延びる「積極的ニヒリズム」の姿ととるか?<5月31日>
47.アンダー・グラウンド/エミール・クストリッツア(1995)
ジプシー音楽の狂騒をバックに虚実ないまぜで語られる複雑な旧ユーゴスラビアの歴史。バルカンは歴史も濃いけど映画も濃いわ。<6月1日>
48.イングリッシュ・ペイシェント/アンソニー・ミンゲラ(1996)
砂漠の持つ官能性が惹起する思いもかけない運命。原作由来とはいえ、すべてを暗示するようなタイトルも秀逸。<6月13日>
49.テルマ&ルイーズ/リドリー・スコット(1991)
まさに遅れてきた女アメリカンニューシネマ。刑事のまなざしを通じて主人公たちへの共感が描かれる。<6月17日>
50.ブラック・ブレッド/アウグスティ・ビリャロンガ(2012)
スペイン内戦という影の重さを改めて気づかされる。かすかな期待をも見事に裏切る徹底したスト-リー。冒頭の馬の転落シーンは息を呑む。<6月21日>
51.野良犬/黒澤明(1949)
ヤミ市シーンがふんだんに登場。主人公同様に復員兵だった三船敏郎の存在感が光る。<7月14日>
52.ヒート/マイケル・マン(1995)
ビッグ・ネームの主人公役2人に引っ張られたストーリー。ラストもイマイチ。市街での銃撃戦は見ごたえあり。<7月15日>
53.遥かな町へ/サム・ガルバルスキ(2011)
谷口ジロー原作の映画化。ロケ地はリヨン郊外だそうだ。若いころの登場人物がナイーブそうでみんな素敵。谷口ジローのカメオ出演あり。<7月19日>
54.麦秋/小津安二郎(1951)
『晩春』に続く紀子三部作の二作目。三世代を描くことで家族の輪廻というテーマが他の小津作品よりも明示的に描かれ余韻も深い。原節子のお茶漬けのシーンが印象に残る。高堂國典渋すぎ。<7月30日>
55.クロッシング/アントワーン・フークワ(2009)
3人の主人公の刑事の日常のリアリティがすごい。タイトルが連想させる期待を裏切り3人が交錯するのは一瞬だけというのも主人公たちの孤独を暗示するようで意味深だ。<8月1日>
56.96時間/ピエール・モレル(2008)
娘を救出する元CIAの主人公がスーパースターすぎるがそこが図式的な面白さを作りだしているともいえる。リュック・ベンソン脚本。<8月8日>
57.早春/小津安二郎(1956)
若い淡島千景もなかなかだが、やっぱりモダンな岸恵子の魅力に脱帽。<8月9日>
58.チェンジリング/クリント・イーストウッド(2008)
息子を捜し求める、芯の強い一風変わった母親役をアンジェリーナ・ジョリーが熱演。<9月2日>
59.パンズラビリンス/ギレルモ・デル・トロ(2006)
スペインにおいてはファンタジーにも内戦のリアリズムが横たわっている。ダーク・ファンタジーというそうだ。<9月3日>
60.風の谷のナウシカ/宮崎駿(1984)
腐海は原子力汚染のことなのか。<9月7日>
61.パシフィック・デンジャラス/オキサイド・パン、ダニー・パン(2008)
『レイン』という映画のリメイクだそうだが、すべてが煮え切らないぐずぐずの感じの凡作。<9月8日>
62.紅の豚/宮崎駿(1992)
背景の絵の密度がすごい。<9月10日>
63.ポルトガル、ここに誕生す/オムニバス(2012)
バーテンダーの物語(アキ・カウリスマキ)、いつものヴェントゥーラが登場(ペドロ・コスタ)、割れた窓ガラス工場の従業員が語るドキュメンタリー(ビクトル・エリセ)。征服者、征服さる(マノエル・ド・オリヴィエラ)<9月14日>
64.秋日和/小津安二郎(1960)
『晩春』の父娘パターンが母娘パターンになっている。原節子が母親役。娘役は司葉子。佐分利信、中村伸郎、北竜二のオジサン3人組みの掛け合いが醸し出すゆったりとしたテンポが昔風で得がたい味わい。<9月17日>
65.JFK/オリバー・ストーン(1991)
実写も交えて1つの仮説を真実らしく演出しているわけだが後味があまりよくないのは何故だろうか?真実と言い張る強引さが透けてみえるから?<9月19日>
66.誰も知らない/是枝裕和(2004)
タイトルが暗示するごとく周りの社会から隔絶しているかのような遺棄された子供たちの世界が不思議なリアリティを持って語られる。そのリアリティは単純に「悲惨だ」と片付ける大人の目線をあえて回避した語り口によって獲得されている。それを体現しているのが主人公の表情だ。<9月22日>
67.彼岸花/小津安二郎(1958)
小津初のカラー作品。父親佐分利信、娘有馬稲子。おじさん3人組はこちらが先。大映の山本富士子が花を添える。<10月3日>
68.ワンダフルライフ/是枝裕和(1994)
どこからこういう発想が生まれれくるのか、という驚きのストーリー。とはいえあまり面白いとは思えないのだが。ロケ地の廃墟のような施設は勝どきにあった中央水産研究所。<10月5日>
69.仁義なき戦い/深作欣ニ(1973)
何回見ても金子信雄の演技と衝撃のラストシーンに脱帽。<10月11日>
70.凶悪/白石和彌(2013)
高齢化社会のなか人間ひとりひとりに潜む悪。それは果たして「悪」なのか?。リリー・フランキー演ずる「先生」が怖い。<10月12日>
71.幻の光/是枝裕和(1995)
是枝監督の劇場第一作。ラスト近くの海の葬列を追う薄暮のロングショットなど息を呑む美しさ。時の移ろいと自然の営みのなかで再生する人の心。ラストの縁側のカットなど小津へのオマージュ的作品でもある。江角マキコはまさに旬の美しさ。<10月14日>
72.楽園の瑕/ウォン・カーウァイ(1994)
耽美的映像と様式美としての武闘シーンなど異端的武侠映画。その映像は不思議と印象に残る。撮影はクリストファー・ドイル。<10月16日>
73.海炭市叙景/熊切和嘉(2010)
もっと都市を主役に描くようなアプローチでも良かったのではないか。<10月18日>
74.書くことの重さ/稲塚秀孝(2013)
『海炭市叙景』の作者で自死した佐藤泰志のセミドキュメント。函館を描いた映像が美しい。家族がいっさい登場しないのは複雑な関係だったのだろう。芥川賞選考会のシーンは嘘っぽいが面白い。<10月18日>
75.ポエトリー/イ・チャンドン(2010)
全員が事件に対して深刻でなく淡々としているように見えるのはポエトリーなき日常を象徴する敢えての描き方か?<10月20日>
76.奇跡/是枝裕和(2011)
JRスポンサーの企画ものらしいがいやな感じはしない。まえだまえだの2人があってのストーリーを豪華な脇役陣が支える。娘の子だという子供たちを嘘だと分かっていながら泊まらせる老夫婦のエピソードがいい。娘はとうに失踪しているいるのだ。<10月24日>
77.シークレット・サンシャイン/イ・チャンドン(2007)
主人公の傍若でそっけない雰囲気には馴染めないが、相方のソン・ガンフォの放つ雰囲気すこぶる良し。<10月25日>
78.エル・トポ/アレハンドロ・ホドロフスキー(1970)
『エイリアン』の元ネタである『デューン』を企画(ただし途中で頓挫。その後デヴィッド・リンチが映画化)し、メビウスと共作でBD(『ランカル』他)も出版しているなど曰くつきのホドロフスキー監督の代表作。予想以上にとんでもなくて目が離せません。<10月28日>
79.仁義なき戦い広島市死闘編/深作欣ニ(1973)
大友勝利を演じる千葉真一はいまや伝説的。この第2作においては広能こと菅原文太は狂言廻しの役割に終始している。<11月8日>
80.バッド・エデュケーション/ペドロ・アルモドバル(2004)
見事な脚本。ガエル・ガルシ・ベルナルの3役(うち2役は女装)も見もの。最後の3人の行方を文字で説明するカットは不要だろう。<11月11日>
81.華氏451/フランソワ・トリュフォー(1966)
古臭い雰囲気が逆に今観ると近未来っぽいという逆説。ロケ地はイギリス。床が降りてそのまま階段になるモノレールって今もあるのだろうか。<11月14日>
82.4ヶ月、3週と2日/クリスチャン・ムンギウ(2007)
ルーマニアのチャウシェスク政権末期の設定の映画。非合法だった妊娠中絶をめぐる2人の女性の物語。対比的な性格が単なる社会モノに終わらない奥行きを与えている。<11月18日>
83.ビフォー・ザ・レイン/ミルチョ・マンチェフスキ(1996)
恋のプロセスが省略されており感情移入しにくい(第1部)、ロンドンのレストランでの乱射の脈絡が不明(第2部)などにもかかわらず、第3部で対立を止揚する企てが無意味に終わり第1部に循環するところなど、民族対立の終わりなき根深さを暗示して納得。<11月19日>
84.息子の部屋/ナンニ・モレッティ(2001)
普段の日々、息子を亡くした後の自失の日々、そして最後に訪れる傷が癒される瞬間、それぞれの何気ない日常の描き方が秀逸。<11月20日>
85.シュガーマン/マリク・ベンジェルール(2012)
アパルトヘイト時代の南アで伝説のシンガーとなっていた70年代初頭のアメリカで活躍したロドリゲスのドキュメンタリー。ボブ・ディラン+フォセ・フェリシアーノ+ジム・モリソン÷3という感じのアーティスト。音楽もなかなかだがその生き方が共感を誘う。早速CDを買いに走ったという訳だ。<11月23日>
86.オン・ザ・ロード/ウォルター・サレス(2012)
原作同様にあまり共感を覚えないのはなぜなのだろうか?今となっては「此処ではない何処か」というテーゼがむなしく感じるからか?あるいはプロセスに心惹かれないからか?もっと若いときに読んだり観たりするべきだったのかもしれない。<11月23日>
87.ゴースト・ライター/ロマン・ポランスキー(2010)
最後まで魅せるストーリーテリングと雰囲気づくりの上手さはポランスキーならでは。ピアース・ブロスナンは老けて良し。海辺のモダン豪邸は何処?<11月24日>
88.ヴァンダの部屋/ペドロ・コスタ(2004)
悲惨が日常すぎて「幸せ」などという身勝手な概念を超越したある種の潔さで観る者に迫ってくるという逆説。撤去工事が進む移民地区で電源もないなか手持ちデジタルカメラで撮ったドキュメンタリー的作品。映画の概念を変える衝撃作。<11月26日>
89.黄金の七人/マルコ・ヴィカリオ(1965)
とぼけた味がなんともいえない主人公の男女と奇想天外の銀行強盗の仕掛けが楽しい。ルパン三世のネタ元だそうだ。スキャット、ジャズ、バロックをミックスしたようなアルマンド・トロヴァーリョの音楽良し。<12月7日>
90.シチリア・シチリア/ジュゼッペ・トルナトーレ(2009)
独楽の中に閉じ込められた蝿、自殺のための薬を処方してもらうシーン、都市計画を牛耳る盲目の顔役など独創的なエピソードが楽しいのだが、柱となっている主人公の政治とのかかわりの展開が中途半端で残念。<12月14日>
91.ダンサー・イン・ザ・ダーク/ラース・フォン・トリアー(2000)
悲惨極まる「現実」が手ぶれ画像で描かれ、「夢」はいかも映画的なミュージカル仕立てで描かれる。しかし、突っ込みどころの多い「現実」の描き方に気づくと、いずれも虚構(映画)でしかない、というしたたかな意図が浮かび上がる。そして「夢」が「現実」を陵駕するラストで悲惨と幸福のリアリティが逆転する。ミュージカルとしての「夢」がリアルになるいう意味では主人公が歌手なのは必然だった。見事な構造だが全編に漂う暗さは正直疲れる。<12月14日>
92.濹東綺譚/新藤兼人(1992)
孤独を描かないと荷風にはならないのでは。津川雅彦も荷風に見えない。最後の大黒屋でカツ丼を頬張るシーンはそんな感じだっただろうと思わせる見事な演技。<12月15日>
93.流れる/成瀬巳喜男(1956)
登場人物の様々な個性が重なり合って奥行きのある世界が創り出されている。文化を支えるものは、一瞬で消え去るような、後世から見ると非常識な、無駄では儚いものたちなのだ。杉村春子と岡田茉莉子が酔っ払って踊り歌うシーンは花柳界という滅びの美学を象徴して忘れがたい。<12月17日>
94.ジンジャーとフレッド/フェデリコ・フェリーニ(1986)
TV業界のお祭り騒ぎを背景に往年のダンススター2人が披露するかつて一世を風靡したフレッド・アステアとジンンジャー・ロジャースの物まねダンス。祭りの後と老いという2重の寂寥感が身にしみる。怪しげな老け役のマストロヤンニが最高。<12月22日>
95.さらば友よ/ジョン・エルマン(1968)
チャールズ・ブロンソンをスターに押し上げた作品。基本はサスペンス(セバスチャン・ジャプリゾ原作)だが、フランスっぽいアーティスティックな映像もちりばめられている。アラン・ドロンのベレー帽とヘリンボーンのダブルブレストのコートが素敵。グラスにコインを沈めるゲームは何回見ても唸るカッコ良さ。<12月23日>
96.許されざる者/クリント・イーストウッド(1992)
善悪の構図というクリシェを否定した西部劇。それにしても主人公のハッピーエンディングはどうか。賞金稼ぎに復帰するきっかけが若造にそそのかされて、とういのもどうか。ジーン・ハックマンの最期は『用心棒』の仲代達也そのままんま。<12月26日>
97.L.A.コンフィデンシャル/カーティス・ハンソン(1998)
50年代の怪しげなL.A.の雰囲気が良く出ていた。殉死したケビン・スペーシー以外の主人公たちは、最後の最後に真実を隠蔽して個人の野望や安寧を手に入れたという皮肉なエンディング。Confidentialとはこの真実の隠蔽を指しているのだ。<12月27日>
98.用心棒/黒澤明(1961)
それまでの舞踏的表現(いわゆるチャンバラ)を排除した殺陣を始めたのがこの映画。2度づつ切る、1対多、恐怖でなかなか刀を合わせられないなど、時代劇に独自の映画的リアリズムを生み出した。三船敏郎の浪人の風貌も伝説的。<12月28日>
99.ネバー・セイ・ネバー・アゲイン/アーヴィン・カーシュナー(1983)
1930年生まれのショーン・コネリーは公開時53歳。やっぱりジェームズ・ボンドには見えないね。ジェームス・ボンドには若さが必須ということに改めて気がついた。『ミスター・ビーン』のローワン・アトキンソンが英国大使館員役で出演。<12月29日>
100.水の中のナイフ/ロマン・ポランスキー(1962)
ロマン・ポランスキーの記念すべきデビュー作。心のゆらぎ、不安感、葛藤、対立などを情景と小道具を絡めながら描く緊迫感あふれる作風は、本作においてすでに開花している。あくまで自らの判断にこだわって自首するか、それとも妻の浮気を飲み込んで日常に帰るか。主人公夫婦は決して元には戻れない。<12月30日>
2014上半期に観た75本の映画へ
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