映画の中の住まいや暮らしの話題「シネマのなかのリビング」。
『勝手にしやがれ』はヌーベル・バーグの記念碑といわれているジャン=リュック・ゴダール監督の作品です。
大胆でスピーディーな展開、ハンディカメラを駆使した臨場感あふれるカメラワーク、それまでになかった人物造形など当時、世界の映画界に衝撃を与えた魅力は今も色褪せていません。
ミシェル(ジャン=ポール・ベルモンド)はマルセイユでオールズモービルを盗み、途中で偶然のように白バイ警官を殺し、パリに住むアメリカからの留学生パトリシア(ジーン・セバーグ)の許に向かいます。
ジャーナリスト志望のパトリシアは、初めてもらった作家へのインタヴューのアルバイトのことで心ここにあらずという感じ。警察の捜査を気にしながらも怪しげな金策に奔走し、あの手この手でパトリシアの気を惹こうとするミシェル。
この映画はミシェルとパトリシアの2人に加え、パリの街そのものが主人公といってもよい作品です。
パトリシアがニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙を売り歩くシャンゼリゼ通り、盗んだキャディラックのコンバーチブルを乗り回すモンパルナス通りの夜の街並み、最後のカンパーニュ・プルミエール通りでの追跡劇など、現実のパリの街が手持ちカメラによっていきいきととらえられています。街頭で撮影したのはスタジオでセットを組む予算がなかったというのが最大の理由だったのですが。
エキストラを雇うお金もないので、まわりの人が驚いて振り返って見ているシーンなどもあり、そうした当時の型破りな臨場感などもファンを惹きつけてやまない魅力のひとつです。
パトリシアはプチホテルの一室を住まいにしており、2人がそこで半日過ごすシーンが登場します。
ベッド、小さな机、ベッドから手を伸ばせば届くようなところにある窓、あとはクローゼットとバスルーム。クローゼットの上に置かれたレコードプレイヤーがその狭さを表しています。
実際、パリの街中の古くからのプチホテルはこんな感じの広さです。ベッドの周りは人一人がやっと通れるぐらいしかない部屋が当たり前です。
ソファもないので2人は白いシーツに包まって、ベッドの上で本を読み、煙草を吸い、レコードを聴き、謎かけのような問答、戯れのような会話を延々と交わします。
惹かれ合いながらどこかずれているような、ひたむきでありながらどこか投げやりなような2人。それまでの男女を描く際の、これみよがしの演出や重苦しい雰囲気とは無縁の、自由で、ある意味では冗談めかしたような2人の関係の描き方が新鮮です。
ベリーショートカットのジーン・セバークがジャン=ポール・ベルモンドの男物のシャツを羽織ったり、彼のソフトを頭に乗せたりなど、そのファッションも素敵です。
ゴダールはパリのプティホテルの狭いベッドルームを逆手にとって、近くて遠い男と女という、その永遠の関係性を象徴的に描いてみせました。
ミシェル「最低だ」、パトリシア「最低ってなに?」という有名な台詞(この台詞に関する詳しい考察はこちら)で幕を閉じる苦くて甘いラストシーンとあわせて記憶に残る名シーンです。
ж作品データ
タイトル : 勝手にしやがれ A bout de souffle
製昨年/国 : 1959年/フランス
監督 : ジャン=リュック・ゴダール
原案 : フォランソワ・トリュフォー
脚本 : ジャン=リュック・ゴダール
出演 : ジーン・セバーグ、ジャン=ポ-ル・ベルモンド
*初出:東京テアトル リノべーションサイト リノまま
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