ミッド・センチュリーは核の時代でもある。アメリカと旧ソ連は1950~60年代を通じて、次々と核実験をエスカレートさせていた。
カリフォルニアの明るい日差しのなかに、見えない核の恐怖が偏在していたのがこの時代の特徴だ。
冷戦下における核の恐怖は1962年のキューバ危機で頂点に達する。1964年に公開されたスタンリー・キューブリックの映画『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』は、核軍拡の破滅的な結末を皮肉たっぷりにみせてくれる。
カリフォルニア・モダン・リビングもその先端的で享楽的なイメージにふさわしい核の時代に対応した住宅を生み出している。
ポール・ラースローは「リッチ・マンズ・アーキテクト」と呼ばれたセレブ御用達の建築家でハリウッドスターやオイルマネーによる大富豪たちのための邸宅を数多く作った人物だ。ケーリー・グラント、エリザベス・テイラー、バーバラ・スタンウィック、ロバート・テイラー、バーバラ・ハットン、ウィリアム・ワイラーなどハリウッド・セレブがクライアントに名を連ねている。
《アトム・ヴィル・USA》はポール・ラースローが1950年に提案した核の時代のための近未来の住宅コミュニティだ
(MidCentury Architectureというサイトに掲載されている雑誌POPULAR MECHANICSの記事)。
(Paul László 1950より)
住宅は大きなカーブを描いた人工地盤の下に設けられ、移動用のヘリコプターのための個人用ヘリポートが地表に設けらている。地下とはいいながら大きなライトウェルから採光が降り注ぎ、最新の設備とプールまで備えられている優雅な住まいだ。
当時、パット・ブーンやグルーチョ・マルクスやダイナ・ショアなどが精巧な核シエルターを建てていたそうだ。(『カリフォルニア・デザイン 1930-1965 -モダン・リヴィングの起源-』 2013)
ポール・ラースローも核シェルターを提案しているが、なんといってもユニークなのがハル・ハイエスによってハリウッド・ヒルに建てられた大豪邸に設けられた核シェルターだ(MODERN MECHANIXというサイトに掲載されている雑誌POPULAR MECHANICSの記事)。
ハル・ハイエスは、建設業で財を成した富豪で、ハリウッド女優と浮名を流す独身のプレイボーイとして名を馳せていた人物だ。
ハルは6層分の大豪邸そのものを核爆弾の衝撃に耐えられる頑丈な造りにしたことに加え、スイミング・プールを経由する贅沢な地下核シェルターを作った。大きなソファや居心地の良さそうなラウンジチェアが置かれ、壁にはアートがかけられ、酸素ボトルが完備されている。水着姿の男女はまるでリゾートハウスで寛いでいるようだ。ハル・ハイエスはプールの水によって核の放射能が除洗されると信じていたそうだ。
(POPULAR MECHANICS August 1953より)
核戦争への恐怖感と奇妙な明るさが一体になったような、核の時代を意識したパラノイアックな住宅は、カリフォルニア・モダン・リビングの持っているある種の「過剰さ」(岸和郎)をよく表している。
そして、こうしたイメージがその後の007シリーズにおけるドクター・ノウやスペクターによる誇大妄想的な地下基地や、『サンダー・バード』における世界中の少年を虜にしたトレーシー・アイランドの秘密基地の元ネタになっていったのに違いない。
*初出:zeitgeist site
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