理由は簡単です。焼きたてのバゲットを賞味するためです。
最近では、パリの宿探しやホテル探しのキーワードとして、徒歩圏内に美味しいブランジュリがあるところということがかなり重要なキーワードになってきております。また、朝、界隈をウロウロしながらそうしたパン屋を探すのもまた楽しいものです。写真のパン屋もそのひとつで、唸る美味しさのバゲットを供する10区は9 rue de Faubourg du Templeに存するAux Peches Normandsというブランジュリです。
東京のパンとパン屋も相当に進歩しております。渋谷のヴィロン VIRONを初め、満足できるバゲットを供するお店も増えてきました。
しかし、しかしです。いくらなんでも朝8時に渋谷は宇田川町の東急百貨店本店横まで電車に乗ってバゲット1本を買いに行く勇気は出ません。そもそもが午前9時開店のVIRONでは不可能な話です。
日本のパン屋が悪いのではなく、文化とは本来そういうものなのです。
パリパリの硬い表面としっとりかつもっちした内部との絶妙な感触の対比、バターなぞ不要のそこはかとない甘さを併せ持った小麦香いっぱいのやわらかな味わい、かすかに光沢のある硬く滑らかな手触り、そして何よりもお店の数メーター手前から既に漂うバターと小麦粉が焼けたえもいわれぬ香り。
パリの朝のまだ青みがった空に真っ白な光が差し込み始める中、眠い目を擦りながらひんやりとした空気に外套の襟を立て、近所のブランジュリまで焼きたてのバゲットを買いに出るのは、少なくなりつつあるその国ならではの文化に対峙する旅でもあるのです。
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