ついに、グラトンgrattonsに日本で巡り会いました!
グラトンgrattonsとは一口大の鴨肉の脂身をじっくり炒めてすっかり脂を落としてカリカリの状態にしたもの。
かんたん至極な料理ですが、凝縮された鴨の旨み、脂が落ちてさくっとした歯ざわり、塩味のある香ばしい食感など、その独特のコクのある味わいは一度食べたら癖になる逸品です。バスク地方だけではなく、他のフランスの地方でも食べられている素朴な料理のようです。
ブラックペッパーを粗引きでガリガリとかけたりすると、ワインのお供に実にふさわしいおつまみになります。当然手でつまんで食べますネ。
そのまま食べる以外に、パン生地に練り込んだり、煮込みや炒め物などに入れたり、付け合せとして添えたりなどすると、鴨の脂の持つ濃厚な旨みがパンや料理の味わいに深みを加えてくれます。
料理の原理としては、日本で言うと、大阪や沖縄ではメジャーな豚肉や牛肉から作る油かすと同じものです。使われ方では天かすなども同じ位置づけといえるかもわかりません。
何年か前にバスク地方のサン・ジャン・ド・リュズ のワインバーで飲んでいた際、隣のグループが食べていたものが実に旨そうだったこともあり、「あれはなに?」といって注文して出てきたのが、このグラトンでした。
勘で入ったこの気の置けない感じのモダンなワインバー、これこそ世界共通ではといういかにもワイン好きオヤジの相貌(実際「祥瑞」の勝山さんに似ていた!)の人物が取り仕切っているこのお店、Bar a Vin の隣にCellier a Vinとも書かれていたのできっとワイン酒屋でもあるこのバーは、日本で言ういわゆる「角打ち」に近い感覚の、グラトンは大盛り、リエットは大瓶丸ごとナイフを刺して、近くのボルドーのなかなかのワインが恐ろしく安い、という優れものお店でした。
その年のバスクの海辺のエリアは3月末だというのに荒れた天候が続いており、その晩も飲んでいるうちに、小雨から雨へそして雪へと変わり、ついには吹雪になってしまった窓外を眺めながら、どうやってホテルまで帰ろうかという心配も半ば諦め顔での場所はずれ季節はずれの雪見酒となったことなどを思い出しました。
くだんのオヤジに「これはなんというの?」と聞いた際に ”grattons” が「ガトン」としか聞こえなかったこともあり(しいて書くとフランス語の発音ではグァトンという感じでしょうか)、その後、日本でいろいろ調べても、グラトンのことはさっぱり分からずにいたのですが、先日、出会ったのですネ。日本で、ついに、雪見のバスクのグラトンに!
それは、恵比寿の「ル・リオン」 Le Lionというお店。
手描きのボードメニューの一等最初にあった「グラトン リヨネーズ」 grattons lyonnais。もしかしたらと思って聞いてみると、まさに鴨のグラトンとのこと。迷わずたのんで、饗宴のスターターとした訳です。
うーン、やっぱり、そうでした、鴨のグラトンでした!
この「ル・リオン」というお店、自らcafé-bouchon lyonnaisと称しているように、リヨン料理を看板にするカフェ兼ブション。地元料理を出すビストロをリヨンではブションと呼ぶんだそうです。
決めすぎない使い込まれた味のあるインテリア、料理のラインナップ(キャロットラペとかウッフマヨネーズなんていう嬉しい一品がありますネ)、ひとつひとつの料理のクォリティ(パテもブーダンノワールもハチノスも付け合せのいろんなポテト料理も満足満足!)、ハーフポーションでの注文も可能という今日的フレキシビリティ、ワインの幅広い品揃え(アンダー5,000円からClos-de-Vogeotあたりまで)、カフェ1杯だけからその気になれば饗宴のフィナーレたるデザートやディジェスティフの余韻まで楽しめる懐の深さ、などなどいっぺんで気に入ってしまいました。
聞くところによると、日本におけるフレンチ系カフェの草分けの一つ「カフェ・ド・フロール東京店」などを経たメンバーの手になるお店とのこと。こなれた雰囲気と高いクォリティの背景にはそうしたバックボーンがあるようです。
その時その時のお腹具合と懐具合と饗宴のコンセプトに合わせて如何様にも組み立て可能で、かつ如何様な構成であろうと満足ゆくクォリティを楽しめるお店。こうしたデイリー・クォリティを支えてくれるお店の存在、すこぶる貴重だと思います。
ところでグラトンですが、今度作ったら暖かいお蕎麦に入れて食べてみようかナー。これこそ「南蛮風鴨たぬきそば」なーんてネ。
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