遅ればせながら見逃していたジョニー・トー監督の『冷たい雨に撃て 約束の銃弾を』を観てきました。
お目あては主演のジョニー・アリディ。注目したきっかけは、パトリス・ルコント監督の『列車に乗った男』(1993年)で孤独な銀行強盗に扮したジョニー・アリディの放つ存在感でした。
ジョニー・アリディといえば60年代のフランスのロックスターの草分け。フレンチポップスといえば、なんといってもミッシェル・ポルナレフからという記憶なので、シルヴィー・バルタンの旦那にしてフランスのプレスリー(!)とも言われていたジョニー・アリディに関しては当時から名前は知っていたもののほとんど関心がなかったのですが、『列車に乗った男』で見た彼は、記憶に残るかつての若かりし頃のどちらかといえばアイドル系のイメージを良い意味で裏切る独特な存在感を持ったオヤジになっていました。
どこか遠くを見つめているような翠の瞳。なにかしら過酷な過去を生き抜いてきたことを伺わせるような深い表情。感情を抑制したストイックな雰囲気などなど、それにしてもこの人は何処で何時こうした類まれな相貌と雰囲気を身につけたのかと驚くほどの変貌ぶりだったのです。
それと印象に残ったのがジョニー・アリディが着ていた革ジャン。味がでた肉厚のレザー、カラーはやや色褪せたような黒に近いダークカラー、立てた際にしっかりとホールドされる襟の仕立て、右胸にだけ開けられたジップポケット、両脇のギャザーとバックベルト風のステッチによる適度にシェイプしたシルエット、要所に控えめに施されたパイピングなど、うーン、カッコいい!と唸ってしまいました。
今回の『冷たい雨に撃て 約束の銃弾を』(それにしても長すぎる日本語題名だネー。原題はシンプルなvengence、復讐・敵討という意です)でジョニー・アリディ扮するのは元殺し屋のレストランオーナー。
感情を内秘めた静かな表情。何を考えているのか窺い知れない深い眼差し。一転して破顔した時の無防備でシャイな笑いなど、ジョニー・アリディはこの映画でも相変わらずの渋い魅力を放っておりました。
そして、またしてもその着ているアウターウエアがカッコいいのです。今回は元殺し屋らしく黒のトレンチコートといういでたちでしたが、タイトなシルエットとラフな着こなしの絶妙なバランス、バーバリーと思しき裏地チラ見せの自然な襟立ての技など、実に様になりすぎるぐらい様になっていました。
映画のストーリーは、マカオに住む娘家族が惨殺されたフランス人の元殺し屋が地元の殺し屋3人組と組んでマカオを舞台に展開する復讐劇。とはいえ、ジョニー・トー監督といえば、香港映画好きには有名な活劇マニアの監督。この映画の場合もストーリーというよりは、プロの殺し屋達の醸し出す雰囲気やら様々なシチュエーションで展開される銃撃シーンやらがむしろなど見どころといった映画。
例えば、雇った殺し屋たちと事件の現場を訪れた際に、ジョニー・アリディが娘の買った食材だといって、それを使ったパスタを作って殺し屋たちに振舞うシーンやその食卓での分解した拳銃を目隠しして組み立てる速さを競うシーンなど、それぞれの性格や過去をさりげなく描写したシーンが忘れられません。
その他にも、フィルムノワールはもちろん、サム・ペキンパーや黒澤明や日活アクションなどを髣髴とさせるシーンが目白押し。殺し屋の一人のジョニー・ウォンが撃たれて死ぬ間際にサングラスを下げてニヤッと笑うところなどは日活アクションの宍戸錠そのまんまという雰囲気で日活アクションファンとしては思わず嬉しくなってしまいます。
映画出演に限らず、ジョニー・アリディといいシルヴィー・バルタンといい、フランスにおいてはオジサンとオバサンがいまだ現役で大活躍しているのですネ。しかもそれがまた独特の存在感を放っておりなんともカッコイイのです。もしかしたら若かりし頃よりも断然魅了的だったりもする訳です。
自殺未遂、離婚、再婚、数々の病など、人生における様々な過酷さは、しかしながら同時にその人の魅力をもいや増すものと理解すべきなのでしょう。
これからも断然注目し続けたいジョニー・アリディ。成熟社会を標榜するわが日本国のオジサンとオバサンももっと頑張らねば!と思った次第でした。
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