今回は『フランスの伝統色』(城一夫 ピエブックス)という本の話題です。
「プロヴァンスの黄色、エルメスのオレンジ、ポンパドゥール公爵夫人のピンク、モネのブルー。本書ではフランスのエスプリが生んだ伝統色270色を紹介します。」と帯の惹句にあるように本書はフランスならではの数々の色とその特長をそれらの色の由来となった現実のモノや風景や絵画などとともに紹介した本。
例えば、フ-イユ・モルト Feuilles mortes (枯葉色)が載ったページの隣には、おそらく晩秋のリュクサンブール公園あたりで撮られたであろう、全ての樹木と木々の間の地面が見事に枯葉で埋め尽くされた写真が添えられています。
あるいは、ジョーヌ・プランタン Janue printemps (春の黄) を紹介する場合は、畑一面に鮮やかな黄色が絨毯のように広がっているおそらくは南仏あたりの田園風景の写真が添えられます。
風景以外にも、シャネル・ベージュ Chanel beige (シャネル・ベージュ)にはガブリエル・ココ・シャネルの手になるシルクのドレスが、ブルー・ドゥ・ピカソ Blue de Picasso (パブロ・ピカソの青)にはピカソの《海辺の母子像》が、ブラン・ドゥ・ロア Blanc de Roi (国王の白)にはパリ凱旋門下にはためくフランス国旗が、それぞれ添えらているなど、色という光の物理現象を通して、フランスの歴史や文化の一端を鮮やかに切り取って見せてくれるのがこの本の魅力です。
ところで、ブラン・ドゥ・ロアは、その名の通りブルボン王家を象徴する白。フランス革命時は王党派の国王旗を表す色でもありました。それが何故、フランス革命に由来する共和制フランスの国旗と関連があるのでしょうか?
フランスの青・白・赤のトリコロールの国旗を発案したのが当時のヒーロー、アメリカ帰りのラファイエット侯爵。そもそもこの図柄の背景には、革命派のなかでも立憲王制を目指していたラファイエットがパリの紋章のカラーだった青と赤の間にブルボン家を象徴する白をはさみ、両派融和の象徴にしようとした意図があったらしいのです。さらに、白は特にアメリカ(当時の革命先進国です!)では自由を象徴する色であり、革命派にとってもふさわしい色だったようです。
ご存知の通り、王党派と革命派との融和はなされず、ラファイエットも失脚し、結局ルイ16世をはじめとした王侯は処刑され、フランス共和制が成立したわけですが、このトリコロールの国旗はその後の紆余曲折を経ながらも結局はフランスの国旗になりました。
ブルボン家を象徴するカラー ブラン・ドゥ・ロアが、フランス革命を経た現在のフランス国旗に引き継がれているという意外な事実は、フランスの歴史や文化における連続性を象徴する出来事のような気がしてなりません。
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