ホテル・マリア・クリスチーナという名前は、サン・セバスチャンを気に入って夏の保養地としていたマリア・クリスチーナ王妃に由来している。オープンして最初に足を踏み入れたのも王妃その人自身だったそうだ。
ホテルが開業した1912年は、まだ第一次大戦が勃発する前であり、ヨーロッパが最もヨーロッパらしかったベル・エポックと呼ばれていた時代の最後の時期だ。
この階段の手の込んだ意匠などはまさにベル・エポック時代ならではのものだろう。
かつてはヨーロッパの王侯貴族が集まった高級保養地に建つホテルらしい開放的でゴージャスな感じのなかにも、どこかフランスっぽい上品なエレガントさも漂っている。
ホテルの設計は、シャルル・ミューズというフランス人。パリのホテル・リッツの内装を手がけた人物だ。どことなくフランスっぽい典雅な雰囲気が漂っている理由はこのあたりにもあるのかもしれない。
20世紀初頭のフランスでは、優雅でありながら直線的でシャープなルイ16世スタイルが何度目かの流行であったらしく、上品なパステルトーンでまとめられ、シンプルな調度でそろえられた客室のインテリアなどに確かにそうしたテイストが認められる。置かれているソファはまさにルイ16世スタイルのものだ。
ホテル・マリア・クリスチーナはサン・セバスチャン市街を流れるウルメア川に面して建っている。
泊まるなら断然北向きの部屋がいい。
窓からはウルメア川の河口とその先に広がる荒ぶる大西洋の景色が望める。
夜になると河口に建つホセ・ラファエル・モネオ設計のサン・セバスティアン文化会議センター(クルサール)が光のオブジェへと変貌する。
ウルメア川の川面にゆれる街灯の光、スリオラ橋のぼんぼりのような街灯、海と空と闇との区別がつかなくなった深いブルーの広がり、発光するクルサールは海に浮かぶランタンのようだ。昼とは違ったちょっと日常離れした光景が現れる。
こうした闇と光の光景に誘われるように、また暮れかかるサン・セバスチャンの街に繰り出してゆくというわけなのだ。
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